ハルノの日々の話

「お題」と詩と日々の話

20年使い続ける「正解」の食器棚

たまに出会う<物を売らない店員さん>のお話。

 面白かったのは、主人が電動ひげそりに興味を示したのでプレゼントしてあげようと探しに行ったら「僕なら買いません!」とはっきり言った若い男性店員さん。正直、笑いました。「僕自身は手で剃るのが最強だと思ってるんですけど…。あえて言うならこれでしょうか」とかではなく「買いません」って。それでいいのか?怒られないのか?と思いましたけど理由も言ってくれたので結局買わずに帰りました。いやぁ、はじめてそういう買わせない人に会ったのであれは正解だったのかわかりません(笑)変な意味で「すごい」店員さんでした。

 

 ちゃんと購入に至ったものでいうと新婚の時、家具家電をそろえている中でお世話になった家具屋さんの当時50~60代に見えた紳士な店員さんです。

 

 結婚してすぐに住んだ家は2Kで台所が玄関と直結していたのでとにかく物が置けない!という狭さでした。冷蔵庫もこの機種しか無理、というものを探し出し、取り寄せてくれるお店を探したほどです。そんなところに置く食器棚。食器は少ないもののだからといって棚は小さければそれでいいのか?できればトースターも収納したいからあまり小さいことにこだわったら結局もう一つ棚を追加することになるんじゃないか?と、最適なものを試行錯誤しながら探していました。

 

 近所に立派な家具屋さんがあり、当時はまだまだネットで買うことも少なかったので何度もそこに足を運んで下見したりしながら決めようと思っていたのですが、そこで出会った紳士な店員さん。物静かでぐいぐい感はゼロでした。こちらの事情を話すと単刀直入に「食器棚は小さくていいです…」と。そのあとのお話が何とも言えず哀愁漂っていて忘れられません。

「夫婦で生活スタートさせるときはね。子供も増えるだろうし、お客も来るだろうし、とかいろいろ考えて大きいのにしがちなんですよ。ところがね、子供の食器がいる間なんてほんのちょっとの間でね、夫婦二人になったらこんな大きな食器棚なんて全然いらないんですよ。本当に…小さくていいんです。」

 

 あの~なにかおうちでありましたか⁇と自分が50代になった今ならそこで世間話が始まったんだろうなという気もしますが、当時30歳と29歳だった私たち夫婦はただただそのお話を苦笑いして聞いておりました。でも、この方が人生の先輩として出した結論なんだと思うと、そして、新婚の二人に無駄に大きな買い物をさせてお店の利益を気にするより「ちょうどいい」のを紹介しようとしてくれるそのことにとっても好感が持てました。ついでに想像するのが好きなわたしはその店員さんが今日、家に帰ったらご夫婦で、もう長いこと使われずに飾られているたくさんの処分するにしきれない食器が入った大きな食器棚を眺めながら思い出に浸り、時々切なくなっておられるのかと思うと「なんてかわいいおじ様でしょう」とも思ってました。

 

 結局、木目の「控えめなカントリー調」と言った感じのぬくもりのある60cm幅くらいしかない1~2人用の食器棚にしたのですが、これがなかなか優秀で。二人分の食器は十分収まり、その上トースターとホームベーカリーも収納できているし、お気に入りは、一番下の「ここはもう土台部分でしょ?」というところまで実は引き出しになってくれているので大皿もすっぽり入っているのです。店頭に並んでいるときはわたしたちはこの部分に気づいておらず、その店員さんに教えてもらって「この棚、実はこのサイズにしてはすごく優秀かも!」と思ったポイントです。今、ちまたにあふれている組み立て家具でもないのでがっしり安定しているし、20年たち、途中引っ越しも2回していますがどこも何ともなっていません。家が広くなってもずっと連れてきています。

本当に店員さんの言う通りでした。

 

 自分の経験から若い夫婦に教え諭すように率直にお話ししてくれたおじさま。

 でもどこか自信をもって商品の良さを伝えてくれたおじさま。

 この食器棚を見るたびに、哀愁漂うあの店員のおじさまを思い出します。

 

 私たちもあのころのあの店員さんの歳になりました。

 お元気だといいな。